訪問日:2019年5月11日
上野の東京国立博物館(東博)で開催中の、「東寺 空海と仏像曼荼羅」特別展を見に行ってきた。
パンフレットによると、823年に弘法大師・空海が嵯峨天皇より東寺を賜り、真言密教の根本道場としたそうだ。 今回 この東寺に安置されている、立体曼荼羅といわれる仏像群が出展されるという。
曼荼羅といえば、大きな布にたくさんの仏を描いて、密教の世界観を描いたもの・・・ と理解しているが、その立体版とはどんなものか?
私には曼荼羅の世界は理解不能である。 しかし仏像の持つ美しさ、迫力を楽しみに行くことにした。
立体曼荼羅とは
東寺の公式ホームページ内に説明されている「立体曼荼羅」を読んでみた。
それによると、密教の教えをわかりやすく描いたものが曼荼羅である。 しかしその曼荼羅を更にリアルに伝えるため、描かれた仏像たちが曼荼羅から飛び出して3次元で構築したものが立体曼荼羅である。
大日如来を中心に、菩薩、明王、そして四天王など21体の仏像で立体曼荼羅は構成され、今回の特別展では、この中から国宝11体、重文4体の合計15体が展示されている。
「帝釈天騎象像」の写真撮影が許された
最近このような特別展に来ると、写真撮影のコーナーが置かれることが多くなった。 SNSの普及に伴う来場者サービスと、SNSを使って宣伝の一助とすることが目的と思われる。
今回は「帝釈天騎象像」の撮影が許可され、多くの人がスマホなどを持って群がっていた。 もちろんフラッシュ厳禁である。
帝釈天騎象像
帝釈天といえば、「寅さん」の舞台である柴又帝釈天を思い浮かべる。
梵天と共に四天王を配下に置いて、仏法を守護するお偉い神様が帝釈天である。
ふっくらとした頬を持ち、意志の強そうなイケメン像である。
【 帝釈天 vs 阿修羅 壮絶な戦い 】
阿修羅は自分の娘を帝釈天の嫁に・・・と考えていた。 しかし帝釈天は阿修羅の心を知らず、強引に娘を奪ってしまった。 今風に言えばレイプだろうか・・・
これを知った阿修羅は怒り狂い、帝釈天に戦いを挑んだ。 しかし戦いの最中に、何と娘は帝釈天に恋をしてしまい、正式な妻となってしまった。
怒りに油を注がれた阿修羅は、まさに怒髪天を突く如く逆上。 天界全体を巻き込む闘いへとエスカレートしてしまった。 これが「修羅場」の語源である。
怒りに己を忘れ、人を赦すことも忘れた阿修羅は、釈迦の説法を受けて改心して仏教へ帰依する。
憂いを帯びた表情を持つ興福寺の阿修羅像は、娘を奪われた悲しさか、はたまた天界を巻き込んだ闘いの反省か・・・
仏像総選挙を行えば、No.1確実の阿修羅には、このような悲しい裏話が存在する。
ドロドロの愛欲を昇華して悟りへ導く 「愛染明王」
東博本館で「密教彫刻の世界」という企画展も行われていたので立ち寄ってみると、この「愛染明王」が展示されていた。
数多くある煩悩の中でも、本能に近い愛欲を断ち切るのは難しいという。 この愛欲を悟りに導いてくれるのが「愛染明王」である。
真っ赤な顔で憤怒の形相という恐ろしい顔をしているが、愛染明王には「良縁成就」や「夫婦円満」といった御利益があるという。
そのためか手には弓と矢を持っている。 まさに恋のキューピットと同じである。
ガラスケースに蛍光灯が写りこんでしまったが、「愛染」という名を見ると「愛染恭子」を思い浮かべるのは私だけか?? そして私は、まだドロドロの愛欲の海の中に漂っていたい!
次の東博訪問は、7月から開催される「三国志」の特別展である。 往時の遺物を見ることで、小説を読んで思い描いていた三国志の世界は更に拡がると思われる。 きっともう一度読みたくなることだろう。
しかし このような特別展でなくとも国立博物館は十分に楽しめる。
本館や東洋館などの常設展示をゆっくり見ていくと、歴史や美術の教科書などに出てきたような作品名や作者名に出会うことができる。
知的好奇心を満足させ、さらに暇な時間を有意義に過ごすには、ちょうど良い施設である。 ぜひ足を運ぶことをお勧めする。