江戸の旅 箱根の雲助は本当に悪だったのか?

山かご
 
江戸時代、街道筋には駕籠かきや荷物を運ぶ人足を置く宿場があった。 この仕事に就く人足の多くは住所不定で、雲のごとく定まらない または 糸を張って餌を待つクモに似ていることから「雲助」と呼ばれるようになったらしい。

この「雲助」というと、客を脅して金品を巻き上げたり、一人旅の女性に悪戯したなど、悪の代名詞のようなイメージが定着している。

特に「箱根の雲助」は、雲助の代表格のように言われているが、果たして本当に「悪」だったのだろうか? 雲助の真実に迫ってみたいと思う。
 

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箱根越えの起点 小田原宿と三島宿

小田原宿

江戸から京を目指して出発した旅人は、3日目に小田原に宿泊する。 そして明けて4日目、いよいよ天下の険・箱根八里を越えることになる。

足の弱い者は、この小田原宿で馬や駕籠を手配して、山越えの準備を整えたそうだ。

小田原宿風景

雲助たちの出身地

小田原から箱根登山鉄道に乗ると、途中に「風祭」とか「入生田」という駅がある。 このあたりは、嫌われ者だった「箱根の雲助」たちの出身地である。

下の写真は昔の入生田の風景だそうで、左に早川が流れ、中央の細い道が旧東海道と思われる。

入生田風景

三島宿

上り4里、下り4里といわれる箱根八里であるが、関所を越えて三島に向かって道が下りはじめると、旅人は心からホッとしたに違いない。

三島宿風景

大名行列

下の写真は、どこの宿場でどこの大名かも不明だが、明治元年に撮られたという大名行列の一行である。

前年の慶応3年に行われた大政奉還により幕府は崩壊しているので、殿様が江戸から国元へ帰る道中なのかもしれない。

毛槍の長さや、見世蔵の2階の窓がすべて取り払われ、見物人が立ち並んでいることに驚かされる。

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大名行列風景

雲助と奴

茶屋で休む雲助と奴の姿を捉えた写真。 雲助は長持ちの担ぎ手などとして、大名行列に雇われていたようである。

奴さんは半纏をまとい、雲助は裸である。 雲助は暖かければ裸で、冬でも着物1枚着てれば良い方だったようである。

箱根雲助と奴

雲助の階級と3つの資格

雲助の階級

「雲助」という名称は、山越え人足に付けられた総称であり、上級は長持ち、中級は駕籠を担ぐという階級制度があったようである。

雲助に必要な3つの資格

雲助は力があれば誰でもなれる訳ではなかったようで、3つの資格が必要であった。

1. 力の強いこと。

2. 荷造りが上手いこと。

3. 歌が唄えること。

荷造りの上手さでは、箱根の雲助は天下一だったそうである。 京や大阪まで馬の背に揺られても、彼らの造った荷は揺るぎもせず、「この荷は箱根の誰々が造った」と判ったぐらい有名だったそうだ。

また 唄の上手さは山越えの客をなぐさめ、自分たちの足並みを揃えるために唄ったようだが、酒代をはずむと、朗々と綺麗な喉を聞かせてくれたとか・・・

雲助達の商売道具 山かご

箱根越えで使われた駕籠は、「山かご」と呼ばれるものであった。 これは「町かご」と異なり、客は寝るような形で乗っていたそうだ。

山かご箱根の雲助

軽量化を図ったのか、山かごの造りは簡単である。 また寝るようにして乗ったのは、山道で岩や木の根に底がぶつかることを避けるため、駕籠の高さを抑える工夫をしたものと思われる。

山かご

登録制だった雲助

雲助たちは宿場の問屋場(といやば)という、人馬の継立業務を行う所に登録していた。 問屋場はタクシー会社の配車と同じように、登録されている雲助に仕事を割り振っていた。

この登録制により、住所不定の輩が入り込むことを防いだようだ。 そして正規の人足たちはユスリ、タカリは行わず、むしろ天下の険の交通を預かる者としてのプライドがあったそうである。

「足元をみる」という慣用句

よくいわれる悪行を働いた雲助は、流れ者による仕業が多かったようである。 いわゆるもぐりである。

「人の足元を見る」という慣用句がある。 これは雲助が旅人の草鞋(わらじ)の擦り切れ度を見て疲れ具合を見抜き、駕籠賃を高くふっかけたことに由来するようである。

ユスリやタカリだけでなく、このように相手の弱みに付け込んだ商売も、もぐりの雲助によるものだったのかもしれない。

下の写真は雲助に関係ないが、街道沿いの茶屋の様子である。

茶屋風景
 
 
正規の雲助たちでも収入は一定せず、その日暮しに近い毎日で、生活は決して楽ではなかったそうだ。 しかし多少金が入れば博打をうち、酒は飲むで、問屋場もある程度黙認していたようである。

しかし先に記したように、「自分たち雲助がいないと、険しい箱根の山道は越えられない」という自負を持つ、立派な職業人だったようである。

【参考文献:傳説と奇談 第3集(山田書院)】

 


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